【Small Talk】その先
- ケイリーパートナーズ
- 10月1日
- 読了時間: 3分

日々の繰り返しのなかで、ふと心に小さな波紋が広がる瞬間がある。
それは、日常に現れた微かな好奇心というサイン。
ほんの一瞬、けれど確かに、自分の中で何かが動く気配。
私にとってその瞬間は、「ブラインドメイク」との出会いだった。視覚に障がいのある方が、鏡を使わずに手の感覚だけでメイクをする技法のことだ。
スキンケアやメイクを通して、自分を慈しみ、表現し、楽しむ。
その当事者の姿がとても美しく、すっかり心を奪われてしまったのだ。
同じ女性として、こんな風に自分と向き合えたらなと、素直に憧れた。
内容をもっと深く知りたくて、オンラインで学習を始めた。
当初は知識だけのつもりだったが、その流れのまま化粧訓練士の資格を取得し、気づけば東京で開催されるイベントスタッフとしてお手伝いをすることになっていた。
イベント当日。
実際に当事者と関わる中で、驚いたことがたくさんあった。
LINEやメールの読み上げ機能をつかって、倍速で情報を聞き取るスキル。
そして、盲導犬と歩くスピードの速さ。
最寄り駅から会場までの案内係だった私は、上りの階段であっさり追い抜かれてしまう。
それでも安全に誘導しなければと、自らの使命感に火がつき、必死になって階段を駆けあがる。
やっと地上に出た時には、肩で息をしながら何も話せない自分に思わず笑ってしまった。
歩くスピードに驚いていると、ご本人は「転んだことは一度もない」と話してくださった。
そのしっかりとした歩みの裏に、ご自身の積み重ねてきた努力と、盲導犬との深い信頼関係があることを知った。
「バリアフリー」という言葉がある。
それまでは、単純に「当事者を守るためのもの」と思っていた。
でも今は、「経験を奪わないためのもの」だと感じる。
私たちが当たり前にやっている日常の体験──外出する、人とのコミュニケーション、メイクを楽しむ。
これらの何気ない行動は、本来誰もが享受できるはずのもの。
バリアフリーは、すべての人がこうした人生の体験を同じように味わうための仕組みなのだ。
「できない」のではなく、「方法が違うだけ」
自分の中にあった見えない思い込みが、すっとほどけていく感覚があった。
知ることで、世界の見え方は変わっていく。
知恵と工夫で、なんでもできる。
誰もが、可能性の塊だ。
できるかどうかより、やってみるかどうか。
そう思えるようになったのは、
自分のふと気になったあの瞬間に、素直に手を伸ばしてみたからだ。
何かを始めるのに、大きな決意や特別な勇気は必要ないのかもしれない。
まずは、ちょっとやってみる。それだけで、きっと十分だ。
「思ってたより意外とできた」
最初の一歩を踏み出すと、二歩目はまたちょっと軽くなる。
それは、自分だけが気づく静かな前進。
すぐに劇的な変化があるわけではない。
それでも、この内側には確実に何かが積み重なっている。
興味のアンテナが少し広がっていたり、ものの見方がほんの少し深まっていたり。
日々の暮らしの中にそっと灯る、「兆し」という名の心の変化。
私の中の「?」に耳を傾けること。
そのささやかな行動が、思いがけない「その先」につながっていく。
今日という日も、そんな新たなきっかけに満ちているのかもしれない。
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